2022年11月27日

逃病日記451(22.11.27.日)

(22.11.25.金)晴れ
 個人的な関心から志賀直哉の『和解』を読んだがなかなかよかった。
 それで『暗夜行路』も読みたくなって近くの大垣書店に買いに行った。そしたら平積みコーナーに、先日の新聞の書評か広告だったかで目に留まって、気になっていた『無人島のふたり』  昨年、ステージ4の膵臓がんで亡くなった作家・山本文緒さんのがんの治療が始まってから亡くなる直前まで半年近くの日記  が並んでいるのが目についた。
 この手の本は、  がんと言っても患者によって病状も状況も異なるので  へたに読んで気持ちが落ち込んだりしても困るのであまり手を出さないようにしていたが、フランス綴じで、表紙カバーの絵柄が非常に印象的かつ魅力的  あたかも死にゆく人の目が捉えたかのような静謐な小鳥たちのスケッチ風の絵  だったこともあって、ついつい買ってしまった。

(22.11.26.土)晴れ時々曇り
 今日は、昨日、買った『無人島のふたり』をずっと読んでいた。
 扉を開いた最初の頁にある下記のご本人の文章の後、5月24日(月)から本文の日記がスタートする。
 2021年4月、私は突然膵臓がんと診断され、そのとき既にステージは4bだった。治療法はなく、抗がん剤で進行を遅らせることしか手立てはなかった。
 昔と違って副作用は軽くなっていると聞いて臨んだ抗がん剤治療は地獄だった。がんで死ぬより先に抗がん剤で死んでしまうと思ったほどだ。医師やカウンセラー、そして夫と話し合い、私は緩和ケアへ進むことを決めた。
 そんな2021年、5月からの日記です。

 この後、日記は10月4日(月)まで綴られて終わっている。その後、白紙の頁の次に編者の下記の言葉が載っている。
 20121年10月13日10時37分、山本文緒さんは自宅で永眠されました。通夜葬儀はコロナ禍のために限られた人数で近隣にて執り行われ、2022年4月22日、都内のホテルで偲ぶ会が開かれました。

 結局、今日一日で本書を読み終えてしまった。
 私の場合は、発病当初、〈扁平上皮がん〉で〈気管がん〉診断されたとき、呼吸器外科の主治医から余命の宣告はなかったが、「気管がんは症例数が少ないので国内での5年生存率のデータはないが、海外のデータでは10数%だ」と告げられた。
 そう告げられたものの、私自身としては、生存率のデータは、あくまで平均的なもので人によって余命に長短があると考えられること、また、保険承認されて使用され始めていたオプジーボやキイトルーダを用いた免疫療法などの最新の治療法が未開発だった頃のデータに基づく生存率と思われること、というように、いいようにいいように考えるようにしていた。
 この秋で発病以来ほぼ5年が経過した。この間、再発を2回ほど繰り返し、放射線治療や抗がん剤による化学療法を経て、最終的にキイトルーダを用いた免疫療法にたどり着き、現在、再発や転移もなく経過観察期間3年を経た。一方で5年前の一回目の入院当初、病棟であわや窒息死寸前になり、コードブルーによる救命措置により一命を救われたこともあった(ICUで目が覚めた)。
 現在は、経過観察期間も半年毎になって、造影剤CT、ペット検査、脳MRIなどが交互に行われているが、その検査結果を告げられる前は今でも再発や転移の不安を払拭し切れない。私の場合は、本書の著者の山本さんのように「余命何ヶ月」と確定診断的に告げられたことはなく、これまでずっと「逃病」し続けることができたが、まだまだ「寛解」とまではいかないようだ。

(22.11.27.日)晴れ
 今日は何と言ってもサッカー観戦!と期待を込めて、いつも日曜日に観ているTV番組  NHK大河『鎌倉殿の13人』とNHK-BS『上陽賦 運命の王妃』  を録画予約して夕方7時からの「日本×コスタリカ戦」を観戦した。
 結果は、ジェットコースターが最高地点から最低地点に落ちていくかのような惨めな敗戦となってしまった。ワールドカップ前の選手選抜をめぐって多くの森保監督批判があったが、ドイツ戦の勝利とともに掌返しの賞賛の声が溢れていた。コスタリカ戦の敗戦でまたまた掌返しになるのかなと思ったが、SNSはともかくマスメディアではそれほどの批判的なコメントはなかったように思う。
 予選突破のためには、第三戦のスペイン戦に勝利(条件次第で引き分けも可)しなければならないが、まあ「柳の下に泥鰌」は二匹はいないだろう。

【今日の読書331※書名頭の数字は当方のブログ『読書リスト』の数字
@-23『源実朝』
A-41『昭和史 上』
B-46『利己的な遺伝子』
B-47『物理学の原理と法則』
E-23『自由対談』
F-77『カメレオンのための音楽』
F-79『和解』
G-11『失われた時を求めて13』
H-4『パンセU』
I-36『無人島のふたり』
K-20『小説の技巧』
L-6『三四郎』
コメント:I-36『無人島のふたり』から印象に残った文章を抜粋した。
p.28(6月1日)「(主治医に余命4ヶ月と告げられた病院からの帰り道で)帰りの新幹線のホームで、それまであまり言われたことにピンときていなかったのが、『4ヶ月ってたった120日じゃん』と唐突に実感が湧いて涙が止まらなくなった。」
p.31(6月5日)「何も考えたくない。過去のことも未来のことにも目を向けず、昨日今日明日くらいのことしか考えなければだいぶ楽になれるのにと思いつつ、気がつくと過去の楽しかったことや、それを失う未来のことで頭の中がいっぱいになって苦しくなってくる。」
p.33(6月6日)「夫と録画してあった『アメトーク!』を見る。アッハッハと笑って全部見終わったら気持ちが無防備になったのか『アー、体だるい。これいつ治るんだろう』と思ってしまい、『あ、そういえばもう治らないんだった。悪くなる一方で終わるんだった』と気付いてだーっと泣いてしまった。」
p.33-34(6月6日)「私の人生は充実したいい人生だった。58歳没はちょっと早いけど、短い人生だったというわけではない。(中略)今の夫との生活は楽しいことばかりで本当に幸せだった。お互いを尊重しあっていい関係だったと思う。どんなにいい人生でも悪い人生でも、人は等しく死ぬ。それが早いか遅いかだけで一人残らず誰にでも終わりがやってくる。その終わりを、私は過不足ない医療を受け、人に恵まれ、お金の心配もなく迎えることができる。だから今は安らかな気持ちだ・・・・・・、余命を宣告されたらそういう気持ちになるのかと思っていたが、それは違った。死にたくない、なんでもするから助けてください、とジタバタするというのとは違うけれど、何もかも達観したアルカイックスマイルなんて浮かべることはできない。そんな簡単に割り切れるかボケ!と神様に言いたい気持ちがする。」
p.37(6月9日)「余命4ヶ月でもうできる治療のない人にかける言葉って、難しすぎる質問だ。私だったらなんて言ったらいいかわからないと思う。(中略)夫はたぶん自分の知人友人のほとんど誰にも私の病状について話しておらず、きっと心に溜まっていることがいっぱいあるはずだった。自分の妻が余命4ヶ月でもうできる治療もないと聞かされたら夫の友達、困ると思うので。」
p.38-39(6月9日)「何も書き残したりせず、潔くこの世を去ればいいのに、ノートにボールペンでちまちま描いてしまうあたりが何というか承認要求を捨てきれない小物感がある。せめてこれを書くことをお別れの挨拶として許してください。」
p.45(6月13日)「すごく体調が良い。なんだ、これ?本当に私、もうすぐ死ぬの?私と夫の間に4月のがん宣告から漂っていた緊迫感が最近少し薄れている感じがする。セカンドオピニオンでダメ押しをされたはずなのに、我々の間に根拠のない『何かの間違いなのでは』という空気が浮かび上がっている気がする。」
p.47(6月15日)「このところ無気力が入ってきている。何かすると言ってもそれはほとんどがこの世に別れを告げるための断捨離だし(服を捨てたり本を捨てたり)楽しい作業とはあまり言えない。」
p.49(6月16日)「カフェで私は夫に『葬儀のことはどんなふうに考えているの?』と恐る恐る聞いた。案の定涙ぐむ夫」
p.50(6月16日)「花をいっぱい買って家に戻った。死んだ後にもらっても見ることができないから生きているうちにたくさん花を愛でたい。」
p.61(6月28日)「先週の入院まで、我々は余命のことを主治医とセカンドオピニオンの医師にもはっきり言われていたにもかかわらず、どこかでまだ先のことと甘く考えていたと知った。でも先週の容態急変で、私も夫もXデーがいつ来てもおかしくないのだと身に染みて知った。」
p.66(6月30日)「未来のための読書がなくなったらもう何も読みたいものはないのかと思ったけれど、私の枕元には未読本が積んであるコーナーがあって毎晩その中からその日の気分に合わせて本を選んでいる。未来はなくとも本も漫画も面白い。とても不思議だ。」
p.73(7月4日)「あまり昔話をすると人から嫌われそうでなるべくしないようにしてきたのだが、生涯が終わる直前ぐらいは思い出してもいいかなと最近ちょっとずつ記憶の底を掘り返している。」
p.76(7月6日)「4月に私のがんが発覚してそれからしばらくふたりとも感情の大波に翻弄される小舟みたいになって、その怒涛の日々の中で夫は、『妻を最期まで自分で面倒見る』というスイッチが入ったようだ。家事と私の世話の合間に(中略)自分が健康でいなければと日々体を鍛えている。」

今日の映画331】※データは『映画.COM』のサイト等から入手
邦題:『シルバラード(NHK-BSの録画で視聴)
原題:Silverado
製作年:1985年
製作国:アメリカ
監督:ローレンス・カスダン
出演:ケビン・クライン/スコット・グレン/ケビン・コスナー/ダニー・グローバー/レイ・ベイカー
ストーリー:執拗な追手の襲撃を振り切ったガンマン、エメット(スコット・グレン)が、哀れな下着姿の風来坊ペイドン(ケヴィン・クライン)と出会ったのは砂漠のど真中でだった。仲間に裏切られて身ぐるみ剥がされたという。ひとまず野宿で夜明かしした2人は次の街へ向かったがそこでペイドンはかつての無法者仲間のリーダーだったコッブ(ブライアン・デネヒー)と会った。コッブから仕事話を持ちかけられたが、足を洗うつもりのペイドンは断って、姉一家の住むシルバラードに向かうエメットに同行することになった。途中、ターリーの町に立ち寄った2人は、そこのバーで黒人客のトラブルを目撃。それを制した街の保安官からエメットの実の弟ジェイク(ケヴィン・コスナー)が縛り首目前の状態で牢に囚われていることを知らされた。ペイドンの協力で弟を助け逃亡する3人にバーで会った黒人ガンマンのマル(ダニー・グローヴァー)が3人に加勢した。途中、強盗に襲われた幌馬車隊を救い、4人はそれぞれの方向に分かれた。エメットとジェイクは姉の家へ。マルは父と妹の待つ開拓集落へ、そしてペイドンは幌馬車隊の若い女性ハンナ(ロザンナ・アークェット)を守って新しい入植地へ。だが、シルバラードは土地独占を図る牧場主マッケンドリック(レイ・ベイカー)に牛耳られており・・・
コメント:評価は5点満点で、映画.COMは3.4、TSUTAYAは3.09、Filmarksは3.5で、私の評価は3.3とした。
 話がやや複雑だが、煎じ詰めれば典型的な西部劇というところ。現在では大スターになってしまったが、若かりし頃のケビン・コスナーの軽妙な演技が初々しい。

今日のジャズ331】※データは『ジャズ資料館』のサイト等から入手
タイトル:Move
アーティスト:Red Norvo
レーベル:Savoy/日本 コロムビア
録音年月日:1950.3.3/1950.10.13/1951.4.13
曲名:@Swedish Pastry/ACheek To Cheek/BNight And Day/CTime And Tide/DSeptember Song/EMove/FI've Got You/ GUnder My Skin/HI Get A Kick Out Of You/II'll Remember April/JI Can't Believe That You're In Love With Me/KZing Went The String Of My Heart/LIf I Had You/MThis Can't Be Love/NGodchild
ミュージシャン:Red Norvo (vib)/Tal Farlow (g)/Charles Mingus (b)
コメント:スイング系のヴァイブ奏者と考えられていたレッド・ノーヴォがモダンなプレイヤーに変身して素晴し演奏を繰り広げる。いきのいい若手だったタル・ファーロウとチャールズ・ミンガスを率いてのプレイはそれまでの彼とは別人のようにモダンで斬新な響きに溢れている。短い演奏ばかりだが、三人がソロイストとしても豊かな才能を競い合う。(『ジャズマンがコッソリ愛する!JAZZ隠れ名盤100』から抜粋)
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2022年11月24日

逃病日記450(22.11.24.木)

(22.11.21.月)曇り
 今日、川端丸太町の娘の留守宅の10年目の定期点検に立ち会ってきた。
 自転車で昼過ぎに出かけ、川端通りをずっと下がって行き、普通のスピードで15分程度で着いた。
 途中、何回か信号でストップし、歩道を走るのも結構段差があって走りづらかったりしたので、高野川と鴨川の河原を行けばよかった。ヨメさんは、先に午前中に出向いていて、片付けなんかをしてくれていた。
 定刻の午後2時になって、建設会社の検査員2人がやって来て検査が開始された。なんと!屋根の点検にはドローンを使っている!50cm四方の小ぶりのドローン。「キューン」という音を立てて忽ち上空へ上昇して静止、地上で操作している検査員が写真を撮っているらしく、時々、ドローンのライトが点滅している。まあ、確かに、昔なら屋根を点検するとなると長い梯子を立てて屋根に登って作業をするということになるので、仕事としても大変だし危険も伴うので、合理的かつ能率的ではあるようだ。
 2時間ほどで点検作業が終了した。帰りは、鴨川の西岸の整備された河原の道を行き、出町の葵橋で河原の道から上の道路に出て、下鴨本通りから御影通りを下鴨神社を抜け、川端通を北上して帰った。信号で停止することもなく、景色もいいので、快適なサイクリングだった。

(22.11.22.火)曇り
 今日も、いつものとおり、ヨメさんがエル・スポーツのスイミング・スクールに行っている間、録画溜めしてあるビデオを観ていた。映画を観終わってほどなく、ヨメさんが帰ってきた。
 HELPから買って帰ってきた食料品を広げながら喋っていたら、突然、リビングのLEDが消えた。なんの前触れもなく本当に「突然」という言葉がピッタリ。ショートしたわけでもないし、原因がわからん。昔の蛍光灯なら、暗くなったり、点滅したりという前触れがあるが、踏み台にのってフードを開けてみたが、そもそも構造が分からん。早速、出入りしてもらっている近くの電気屋さんに電話した。洛北阪急スクエアの地階ににあるエディオンでもいいかなと思ったが、我が家の電気製品のほとんどが、昔から出入りしてもらっている東芝系列の「町の電気屋」さんで買っている。
 連絡したら、いつも来てくれているニイちゃんが、すぐにやって来てくれた。LEDの電灯は、故障の原因を調べて直す、というようなものではないようだ。10年前に買った製品なので、もう寿命ということらしい。早速、新しい製品に取り替えてくれた。これがエディオンだったら、こんなに速やかな対応はしてもらえなかっただろうな。

(22.11.23.水)雨
 今日は、ワールドカップ・サッカーの「日本×ドイツ」戦だった。
 様々なTV番組で、元プロ・サッカー選手などが事後解説的に言うように「前半の劣勢は想定内・・・」なんてことは、普通の視聴者は誰も思っていなかっただろう。それと、サッカーファンの多くの「森保批判」  代表選手選考などに関する  が手のひらを返したような「森保采配への賞賛」に変わったが、まあ、私も「にわかファン」で、同じようなことを思っていた、「森保監督スンマセン」です。
 これで、ほぼ勝てるだろうと言われているコスタリカ戦に負けたりしたら、また手のひら返し直す、なんてことになるんだろう。

(22.11.24.木)晴れ
 先週の金曜日に5回目のコロナ・ワクチンを打ってもらったが、今日は同じ医院で、インフルエン・ザワクチンを打ってもらってきた。
 その後、近くの銀行にキャッシュカードの再発行  ヨメさんが暗証番号を勘違いしたまま3回操作したためカードが無効になってしまった  の手続きをしに行ったが、なんやかんやと1時間近くもかかってしまった。
 手続きを終えて、ラーメン街道を北に上がって『塩釜』で昼食  私は天ぷら蕎麦、ヨメさんは親子丼を注文した。この塩釜の隣は、現在、ラーメン街道で最も人列のできる店『極鶏』がある。今日も30人ぐらいの列ができていた。私も『京都一乗寺ラーメン街道探訪記』で取り上げるためにそのうちに行こうと思っているが、平日のよほど空いていそうな時間帯を選ばないといけない。
 『塩釜』もそれなりに満員で、相席を勧められたので入るのを止めようかと思ったが、奥の座敷席なら空いているらしい。まあいいかと思って入ったものの、左膝は人工関節で、右膝もそのうちに人工関節かなという状態なので、もちろん正座はできない。脚を伸ばしたまま食べたものの、なんかあまり味わって食べた感じがしなかった。
 ちょっとこの店は、相席をさせ過ぎる感じがあるなというのが正直な感想。このコロナ禍でテーブルの真ん中にプラスティックの衝立があるものの、「学食」じゃないんだから・・・・・・

【今日の読書330※書名頭の数字は当方のブログ『読書リスト』の数字
@-23『源実朝』
A-41『昭和史 上』
B-46『利己的な遺伝子』
B-47『物理学の原理と法則』
E-23『自由対談』
F-77『カメレオンのための音楽』
F-79『和解』
G-11『失われた時を求めて13』
H-4『パンセU』
K-20『小説の技巧』
L-6『三四郎』
コメント:F-79『和解』(角川文庫) は、もちろん志賀直哉の小説。なんでいまさら志賀直哉の作品?という感じだが、実は、私自身が個人的に東京にいる息子との間で問題  具体的な内容は控えておく  を抱えていて、本箱の奥から本書を取り出してきた。読後、印象に残った箇所を抜粋して掲げておく。
p.55「少しずつ調和的な気分になりつつある自分には実際の生活で、そのままに信じていたことを愚かさから疑って、起こさなくてもいい悲劇を幾らも起こしているのは不愉快なことだという考えがあった。そしてそれは必ずしも他人についての考えでないのはもちろんのことだった。」
p.56「われわれは簡単に調和して差し支えないことを妙にヒネクレるところから起こさずに済む悲劇を起こして苦しむ」
p.72「自分は父への手紙を書いてみた。(中略)理窟をそれに書く気はしなかった。理窟でいいならそれはやさしいことだった。しかし理窟で自分の要求が正当であるかを書き表せたところで、それが実際で何の役にも立たないことはよくわかっていた。もしもそれが抜け目なく、それでも自分の出入りを禁ずると父に言いにくいように書ければ書けるほど、理窟の上に立っている場合、結果はますます悪くなるに決まっていた。(中略)自分は多少父の感情に訴えるような手紙を書きかけてみた。そかしそれはすぐに止めた。相手を動かそうという不純な気持ちが醜く目についてとても続けられない。自分は二、三度書き直して見た後、手紙では今の自分にはどうしても感じは現せないことを知った。一番困難なことは手紙を書いているうち、頭においている父が少しも一つところにとどまっていないことだった。言いかえれば父に対する自分の感情が絶えずぐらぐらする困難だった。」
p.74「とにかく会った上の成り行きに任せるより仕方がないと思った。感情上のことに予定行動がとれるかのように、またとらすことができるかのように思うのはまことに愚かなことだと思った。」
p.86「父とあまり口をきかなかった。お互いに多少窮屈な感じがあった。自分はこの窮屈な感じはそのうちにとれてくれるだろうと思った。この窮屈を破ろうとしてない話を無理にするのはよくないと思った。父も無理に口をきこうとはしなかった。」

 私の場合は、この小説『和解』とは「父と子」の立場が逆になるが、本書を読んだことによって、私自身の混沌とした感情に言葉が与えられ、形が整えられた(デェフォルムされる場合も含め)ように思われる。
 つまるところ、「親子」や「夫婦」などをはじめとする人間関係における「不和」は、初めは、双方の「思い」や「考え」などの些細なズレや相違を発端とするが、やはり悪(マイナス)感情が背景に潜んでいるため、どうしても相手に対する気持ちがそのマイナス感情によって方向づけされたり、バイアスがかかったりして、単なる「憶測」になってしまい、その後は順番にボタンの掛け違えが起こってしまうんだろう。
 このような場合の解決策としては、「時間が解決してくれる」というフレーズがよく使われようだが、とりあえずは「時間」というものに事を委ねるしか仕方がないんだろう。元々は、根底に双方に相手への信頼や愛情があったという関係なら、「時間」というものによって、憶測による錯誤や迷妄の霧が晴れ、いずれ「和解」のとば口が見えてくるのではないだろうかと思っている。

今日の映画330】※データは『映画.COM』のサイト等から入手
邦題:『涙するまで、生きる(Amazon Prime Videoで視聴)
原題:Loin des hommes
製作年:2014年
製作国:フランス
監督:ダリュビゴ・モーテンセン
出演:ビゴ・モーテンセン/レダ・カティブ
ストーリー:1954年、フランスからの独立運動が高まるアルジェリア。元軍人の教師ダリュ(ビゴ・モーテンセン)のもとに、殺人の容疑をかけられたアラブ人のモハメド(レダ・カティブ)が連行されてくる。裁判にかけるため、山を越えた町にモハメドを送り届けるよう憲兵から命じられたダリュはやむを得ずモハメドとともに町へと向かう。復讐のためモハメドの命を狙う者たちからの襲撃、反乱軍の争いに巻き込まれるダリュとモハメド。ともに数々の危険を乗り越える中で、二人の間に友情が芽生え始めるが・・・
コメント:評価は5点満点で、映画.COMは3.5、TSUTAYAは3.14、Filmarksは3.6で、私の評価は3.8とした。
 ノーベル文学賞作家アルベール・カミュの短編小説をビゴ・モーテンセン主演で映画化したヒューマンストーリー。
 最初から、濃密な作品だなあ、と思っていたら、案の定、原作がアルベール・カミュだった。出演者はほぼ二人だけで、場面も荒涼とした砂漠がほとんどだが、場面、場面で〈生〉と〈死〉を中心にしたテーマが垣間見える。

今日のジャズ330】※データは『ジャズ資料館』のサイト等から入手
タイトル:Swiss Movement
アーティスト:Les McCann
レーベル:Atlantic/ワーナーミュージック
録音年月日:1969.6.
曲名:@Compared To What/ACold Duck Time/BKathleen's Theme/CYou Got It In Your Soulness/DThe Generation Gap/EKaftan
ミュージシャン:Les McCann (vo,p)/Benny Bailey (tp)/Eddie Harris (ts)/Leroy Vinnegar (b)/Donald Dean (ds)
コメント:レス・マッキャンはソウル・フルなピアニストとして根強い人気を誇っている。とりわけ60年代にアトランティックで録音したアルバムの数々は、ジャズというよりソウル・ミュージック的な色彩が濃く、おまけに渋いノドまで披露するものだった。そうした作品の中でも、これはソウル・ジャズの楽しさを伝えてくれる。エディ・ハリスのサックスも心地よくて痛快。(『ジャズマンがコッソリ愛する!JAZZ隠れ名盤100』から抜粋)
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2022年11月20日

逃病日記449(22.11.20.日)

(22.11.17.木)曇りのち晴れ
 iMacの移行作業も終わって、やっと読書の日々が戻ってきたと思ったら、新しいiMacを使うのが楽しくなって、アレコレ触っていて、Amebaのブログをインストールしてみた。
 操作がこの『さくらのブログ』よりやさしそうな感じでおまけに無料やんか。こら、ええやん。『さくらのブログ』で操作慣れしていることもあると思うけど、ほんまにカンタンに使えて、すぐにでも記事をアップできそうやわ(なぜか、突然、大阪弁のフレーズ・・・?)。
 Twitterでやり始めた『京都一乗寺ラーメン街道探訪記』は、7月の整形外科の入院以来、退院後も猛暑の時期、私、メチャクチャ汗かきなのでラーメンなんか食べていたら汗がダラダラとても食レポなんかやってられん、ということでしばらくご無沙汰していた。「そや!TwitterよりAmebaでやったろ!」ということで、『京都一乗寺ラーメン街道探訪記』の再開に合わせ、媒体をTwitterからAmebaのブログに変更することにした。Twitterのようにタイトな字数制限もないので、自由に文章が綴れるそうな感じだ。メインはこの『さくらのブログ』でやって、副産物というか、映画で言うなら「スピンオフ」という感じで『Ameba』のブログを始めることにした。

(22.11.18.金)晴れ
 今日はヨメさんとふたりで、5回目のコロナワクチン接種に行ってきた。
 ちょうど「ラーメン街道」沿いにある、昔からヨメさんが懇意にしている医院で、その隣が『京都一乗寺ラーメン街道探訪記』で取り上げたことがあるラーメン店『一乗寺つるかめ』。
 注射の後、最初は、この「ラーメン街道」沿いにある蕎麦の『塩釜』行こうと話していたが、蕎麦アレルギー  最近のニュースでコロナワクチン接種後にアナフィラキシー症候群で亡くなった人のこと話題になっていた  なんてことがあるのでやめておこうということになった。
 それで今日はおとなしく、昼食は取らずに、私は恵文社に立ち寄るため、ヨメさんはHELPに買い物に行くために歩き始めたが、『麺屋聖  ヨメさんがHELPの行き帰りに通る時に気になっていた店  の前まで来て、まだ11時過ぎで店も空いている感じで、また『京都一乗寺ラーメン街道探訪記』のルポをしばらくご無沙汰していることもあって、思い切って入ることにした。
 この『麺屋聖』は、外観も店内も喫茶店風で、ラーメン店にしてはかなり広くてゆったりしている  確か、ここは以前は「漫画喫茶」じゃなかったかな。
 そんな雰囲気の店なので、私たちが入店した時には女性のグループが二組もいた。一組は観光客のようで、「この後、詩仙堂によって・・・」なんてグループの会話が聞こえてきた。
 初めて入った店は、  誰でも同じだと思うが  メニューやシステムで要領を得ないことが多い。ここでもご多分に洩れず、写真のようなメニュー表。最初はなんのこちゃ分からんかったが、よく読んでみると、麺の種類やスープについて書かれていた。

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 それを見て、私はシンプルで焼豚は厚め、ヨメさんはギフトで焼豚は薄めと煮玉子を注文した。それと別にランチメニューで鶏肉餃子と鶏南蛮を注文した。店主に「鶏南蛮は時間がかかる」と言われたが、「そういうても、そんなんしれてるやろ」と高を括って、とりあえず注文した。
 そんなこんなで、入店してからかなり時間が経つのになかなか注文したラーメンが出てこない。私たちより後から入店した客はもうすでに食べ始めているし、食べ終わって出ていった客もいるじゃないか。なんでや?と思っていたが、出てきたラーメンを見て納得した。私が注文した「厚めの焼豚」がハンバーグのような分厚さで、いちから焼き上げた感じ。なるほど、これに時間がかかっていたのか、しゃあないわな、と納得。

IMG_3426.jpeg  IMG_3427.jpegIMG_3426.jpegIMG_3426.jpeg
  <シンプル+焼豚厚め>  <ギフト+焼豚薄め+煮玉子>

 スープは醤油味で、日ごろ、豚骨味の京都ラーメンに馴染んでいると、あっさりした味に感じる。麺もそれに合わせたようなやや太めでコシのある麺で、なかなか美味しい和風の「らーめん」という感じ、「中華そば」というイメージでもない。
 ところが、別に注文した鶏肉餃子と鶏南蛮が、これまた同じようになかなか出てこない。30分以上経ってやっと届いたが、これもいちから手作りしたような鶏南蛮で、いかにも時間がかかりそうな感じ。まあ、どちらも「標準的な味」という感じだったが、ラーメンでお腹が膨れてしまって、ゆっくりと味わえなかったというのが正直なところ。
 初めて入った店だったので要領を得なかったが、急いでいるような時は、この店では(他の店も一緒かもしれないが・・・)普通の標準的なラーメンだけを注文するのが正解のようだ。

(22.11.19.土)晴れのち曇り
 昨日は、『麺屋聖』を出た後、ヨメさんはHELPに買い物に行ったが、私は、『麺屋聖』と同じマンションの二軒隣のテナントで、最近、オープンしたばかりの古書店『アリバイブックス』に立ち寄った。
 小さな店だが、ちょうど恵文社のような選書の品揃えだった。レジの女性の話では、4店の通販書店が合同でオープンした古書店とのこと。オープンしたてということもあるが、レイアウトなども「古書店」というイメージではない。
 立地が「ラーメン街道」のど真ん中で、恵文社も近くにあるので、また、若者や観光客の新しいスポットが誕生したという感じがする。
 この界隈は、私の学生時分から、今や伝説になった、あの『京一会館』をはじめとして、若者・学生文化の発祥。発信の地であり続けるようだ。

(22.11.20.日)曇り
 涼しい(?)季節になって『京都一乗寺ラーメン街道探訪記』を再開した。
 なんせ私は、無類の「汗かき」で冬場でも扇子は常備品(センスはないけど扇子はある、なぁ〜んちゃって)。キャンドゥーで買った扇子を、TPOに応じて持ち歩く三つほどのバッグ類にそれぞれ入れてある。
 先日行った『麺屋聖』は、当初の方針からはルール違反  東大路通りの西側にある店から順番に北上する予定  で、道路の東側の店だった。まあ、A型の私が拘るどうでもええような方針なので、今後は臨機応変にやっていこう。

【今日の読書329※書名頭の数字は当方のブログ『読書リスト』の数字
@-23『源実朝』
A-41『昭和史 上』
B-46『利己的な遺伝子』
B-47『物理学の原理と法則』
E-23『自由対談』
F-77『カメレオンのための音楽』
G-11『失われた時を求めて13』
H-4『パンセU』
K-20『小説の技巧』
L-6『三四郎』
コメント:夜の就寝前の30分程度のベッド  7月に人工関節置換術をして退院してからベッドに変えた  の中での読書を、ここ最近は、G-11『失われた時を求めて13』とKindleの電子書籍(現在はL-6『三四郎』)を一日おきに読むようにしているが、『失われた時を求めて13』もだいぶ読み進んで、終わりが見えてきた。いよいよ、次巻は全14巻の最終巻になる。このコマは、古典の長編小説を充てているが、さて次はどうするかな。「魂が揺り動かされる」ような読書なら、ドストエフスキーを、何十年ぶりかでまた一から再読するということになるが・・・・・・

今日の映画329】※データは『映画.COM』のサイト等から入手
邦題:『スタンピード(NHK-BSの録画で視聴)
原題:The Rare Breed
製作年:1965年
製作国:アメリカ
監督:アンドリュー・V・マクラグレン
出演:ジェームズ・スチュワート/モーリン・オハラ/ブライアン・キース/ジュリエット・ミルズ/ドン・ギャロウェイ
ストーリー:セント・ルイスでの家畜売買に、英国からやって来たマーサー(モーリン・オハラ)とヒラリー(ジュリエット・ミルズ)母娘は、英国からハーフォード種の角のない牛を連れて来ていた。アメリカではロングホーン種(角の長い牛)が巾をきかせ、角のない牛は牛同士の生存競争で育たないものとされていた。母娘の雌牛はただの乳牛として買いとられ、ビンジと名づけられた雄牛だけがボウエン(ブライアン・キース)の牧場に2千ドルで買取られた。この輸送を任されたのはサム(ジェームズ・スチュアート)だったが、この牛の優秀さを知るテイラーに、千ドルの金で横奪りを頼まれた。サムは、テイラーの悪辣さを知って、テイラーの牧童で怪我をしているガートとジェフに千ドルをくれてやるのだった。サムとビンジ、それにビンジが飼育される牧場に向かうマーサーとヒラリー母娘の旅が始まった。ダッジ市から馬と馬車の旅になったが、途中にはボウエン牧場の息子ジェミー(ドン・ギャロウェイ)が出迎えに来ていた。テイラーはサムが裏切ったことを知って、デックとエドに後を追わせていた。だが、2人は牛より母娘の金を狙って一行を襲った。ジェミーは傷を負ったが、2人はサムに倒された。一行はボウエン牧場にビンジを送り込んだ。この旅でジェミーとヒラリーが結ばれ、サムとマーサーの間に愛情が芽生えた。だが牧場主のボウエンもマーサーに愛情を持つようになった。やがて秋が来てビンジは牧地に放された。そして春がやって来て牛集めの季節となり・・・
コメント:評価は5点満点で、映画.COMは2.1、TSUTAYAは2.45、Filmarksは3.1で、私の評価は3.0とした。
 ちょっと変わったテーマの西部劇という感じ、こんな風にアメリカの西部開拓時代の歴史が垣間見れる作品は、なかなか味わいがある。

今日のジャズ329】※データは『ジャズ資料館』のサイト等から入手
タイトル:Here's Lee Morgan
アーティスト:Lee Morgan
レーベル:Vee Jay/ファンハウス
録音年月日:1960.2.3
曲名:@Terrible T/AMogie/BI'm A Fool To Want You/CRunning Brook/DOff Spring/EBess
ミュージシャン:Lee Morgan (tp)/Clifford Jordan (ts)/Wynton Kelly (p)/Paul Chambers (b)/Art Blakey (ds)
コメント:クリフォード・ブラウンの死と入れ代わるようにニューヨークのジャズ・シーンにデビューしたリー・マーガン。その彼が残した典型的なハード・バップ作品がこれだ。とにかくメンバーがいい。こうしたスタイルの演奏をさせたら一流といわれる腕達者が集まったことで、モーガンが存分に伸びやかなソロを繰り広げる。アップ・テンポの曲では凄みを効かせたプレイに終始するし、バラードはしっとりとした哀愁を漂わせる。理想的な内容を誇るハード・バップの傑作。(『ジャズマンがコッソリ愛する!JAZZ隠れ名盤100』から抜粋)
<YouTubeライブ映像>
posted by ポピー at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 逃病日記