(22.11.25.金)晴れ
個人的な関心から志賀直哉の『和解』を読んだがなかなかよかった。
それで『暗夜行路』も読みたくなって近くの大垣書店に買いに行った。そしたら平積みコーナーに、先日の新聞の書評か広告だったかで目に留まって、気になっていた『無人島のふたり』 昨年、ステージ4の膵臓がんで亡くなった作家・山本文緒さんのがんの治療が始まってから亡くなる直前まで半年近くの日記 が並んでいるのが目についた。
この手の本は、 がんと言っても患者によって病状も状況も異なるので へたに読んで気持ちが落ち込んだりしても困るのであまり手を出さないようにしていたが、フランス綴じで、表紙カバーの絵柄が非常に印象的かつ魅力的 あたかも死にゆく人の目が捉えたかのような静謐な小鳥たちのスケッチ風の絵 だったこともあって、ついつい買ってしまった。
(22.11.26.土)晴れ時々曇り
今日は、昨日、買った『無人島のふたり』をずっと読んでいた。
扉を開いた最初の頁にある下記のご本人の文章の後、5月24日(月)から本文の日記がスタートする。
2021年4月、私は突然膵臓がんと診断され、そのとき既にステージは4bだった。治療法はなく、抗がん剤で進行を遅らせることしか手立てはなかった。
昔と違って副作用は軽くなっていると聞いて臨んだ抗がん剤治療は地獄だった。がんで死ぬより先に抗がん剤で死んでしまうと思ったほどだ。医師やカウンセラー、そして夫と話し合い、私は緩和ケアへ進むことを決めた。
そんな2021年、5月からの日記です。
この後、日記は10月4日(月)まで綴られて終わっている。その後、白紙の頁の次に編者の下記の言葉が載っている。
20121年10月13日10時37分、山本文緒さんは自宅で永眠されました。通夜葬儀はコロナ禍のために限られた人数で近隣にて執り行われ、2022年4月22日、都内のホテルで偲ぶ会が開かれました。
結局、今日一日で本書を読み終えてしまった。
私の場合は、発病当初、〈扁平上皮がん〉で〈気管がん〉診断されたとき、呼吸器外科の主治医から余命の宣告はなかったが、「気管がんは症例数が少ないので国内での5年生存率のデータはないが、海外のデータでは10数%だ」と告げられた。
そう告げられたものの、私自身としては、生存率のデータは、あくまで平均的なもので人によって余命に長短があると考えられること、また、保険承認されて使用され始めていたオプジーボやキイトルーダを用いた免疫療法などの最新の治療法が未開発だった頃のデータに基づく生存率と思われること、というように、いいようにいいように考えるようにしていた。
この秋で発病以来ほぼ5年が経過した。この間、再発を2回ほど繰り返し、放射線治療や抗がん剤による化学療法を経て、最終的にキイトルーダを用いた免疫療法にたどり着き、現在、再発や転移もなく経過観察期間3年を経た。一方で5年前の一回目の入院当初、病棟であわや窒息死寸前になり、コードブルーによる救命措置により一命を救われたこともあった(ICUで目が覚めた)。
現在は、経過観察期間も半年毎になって、造影剤CT、ペット検査、脳MRIなどが交互に行われているが、その検査結果を告げられる前は今でも再発や転移の不安を払拭し切れない。私の場合は、本書の著者の山本さんのように「余命何ヶ月」と確定診断的に告げられたことはなく、これまでずっと「逃病」し続けることができたが、まだまだ「寛解」とまではいかないようだ。
(22.11.27.日)晴れ
今日は何と言ってもサッカー観戦!と期待を込めて、いつも日曜日に観ているTV番組 NHK大河『鎌倉殿の13人』とNHK-BS『上陽賦 運命の王妃』 を録画予約して夕方7時からの「日本×コスタリカ戦」を観戦した。
結果は、ジェットコースターが最高地点から最低地点に落ちていくかのような惨めな敗戦となってしまった。ワールドカップ前の選手選抜をめぐって多くの森保監督批判があったが、ドイツ戦の勝利とともに掌返しの賞賛の声が溢れていた。コスタリカ戦の敗戦でまたまた掌返しになるのかなと思ったが、SNSはともかくマスメディアではそれほどの批判的なコメントはなかったように思う。
予選突破のためには、第三戦のスペイン戦に勝利(条件次第で引き分けも可)しなければならないが、まあ「柳の下に泥鰌」は二匹はいないだろう。
【今日の読書331】※書名頭の数字は当方のブログ『読書リスト』の数字
@-23『源実朝』
A-41『昭和史 上』
B-46『利己的な遺伝子』
B-47『物理学の原理と法則』
E-23『自由対談』
F-77『カメレオンのための音楽』
F-79『和解』
G-11『失われた時を求めて13』
H-4『パンセU』
I-36『無人島のふたり』
K-20『小説の技巧』
L-6『三四郎』
コメント:I-36『無人島のふたり』から印象に残った文章を抜粋した。
p.28(6月1日)「(主治医に余命4ヶ月と告げられた病院からの帰り道で)帰りの新幹線のホームで、それまであまり言われたことにピンときていなかったのが、『4ヶ月ってたった120日じゃん』と唐突に実感が湧いて涙が止まらなくなった。」
p.31(6月5日)「何も考えたくない。過去のことも未来のことにも目を向けず、昨日今日明日くらいのことしか考えなければだいぶ楽になれるのにと思いつつ、気がつくと過去の楽しかったことや、それを失う未来のことで頭の中がいっぱいになって苦しくなってくる。」
p.33(6月6日)「夫と録画してあった『アメトーク!』を見る。アッハッハと笑って全部見終わったら気持ちが無防備になったのか『アー、体だるい。これいつ治るんだろう』と思ってしまい、『あ、そういえばもう治らないんだった。悪くなる一方で終わるんだった』と気付いてだーっと泣いてしまった。」
p.33-34(6月6日)「私の人生は充実したいい人生だった。58歳没はちょっと早いけど、短い人生だったというわけではない。(中略)今の夫との生活は楽しいことばかりで本当に幸せだった。お互いを尊重しあっていい関係だったと思う。どんなにいい人生でも悪い人生でも、人は等しく死ぬ。それが早いか遅いかだけで一人残らず誰にでも終わりがやってくる。その終わりを、私は過不足ない医療を受け、人に恵まれ、お金の心配もなく迎えることができる。だから今は安らかな気持ちだ・・・・・・、余命を宣告されたらそういう気持ちになるのかと思っていたが、それは違った。死にたくない、なんでもするから助けてください、とジタバタするというのとは違うけれど、何もかも達観したアルカイックスマイルなんて浮かべることはできない。そんな簡単に割り切れるかボケ!と神様に言いたい気持ちがする。」
p.37(6月9日)「余命4ヶ月でもうできる治療のない人にかける言葉って、難しすぎる質問だ。私だったらなんて言ったらいいかわからないと思う。(中略)夫はたぶん自分の知人友人のほとんど誰にも私の病状について話しておらず、きっと心に溜まっていることがいっぱいあるはずだった。自分の妻が余命4ヶ月でもうできる治療もないと聞かされたら夫の友達、困ると思うので。」
p.38-39(6月9日)「何も書き残したりせず、潔くこの世を去ればいいのに、ノートにボールペンでちまちま描いてしまうあたりが何というか承認要求を捨てきれない小物感がある。せめてこれを書くことをお別れの挨拶として許してください。」
p.45(6月13日)「すごく体調が良い。なんだ、これ?本当に私、もうすぐ死ぬの?私と夫の間に4月のがん宣告から漂っていた緊迫感が最近少し薄れている感じがする。セカンドオピニオンでダメ押しをされたはずなのに、我々の間に根拠のない『何かの間違いなのでは』という空気が浮かび上がっている気がする。」
p.47(6月15日)「このところ無気力が入ってきている。何かすると言ってもそれはほとんどがこの世に別れを告げるための断捨離だし(服を捨てたり本を捨てたり)楽しい作業とはあまり言えない。」
p.49(6月16日)「カフェで私は夫に『葬儀のことはどんなふうに考えているの?』と恐る恐る聞いた。案の定涙ぐむ夫」
p.50(6月16日)「花をいっぱい買って家に戻った。死んだ後にもらっても見ることができないから生きているうちにたくさん花を愛でたい。」
p.61(6月28日)「先週の入院まで、我々は余命のことを主治医とセカンドオピニオンの医師にもはっきり言われていたにもかかわらず、どこかでまだ先のことと甘く考えていたと知った。でも先週の容態急変で、私も夫もXデーがいつ来てもおかしくないのだと身に染みて知った。」
p.66(6月30日)「未来のための読書がなくなったらもう何も読みたいものはないのかと思ったけれど、私の枕元には未読本が積んであるコーナーがあって毎晩その中からその日の気分に合わせて本を選んでいる。未来はなくとも本も漫画も面白い。とても不思議だ。」
p.73(7月4日)「あまり昔話をすると人から嫌われそうでなるべくしないようにしてきたのだが、生涯が終わる直前ぐらいは思い出してもいいかなと最近ちょっとずつ記憶の底を掘り返している。」
p.76(7月6日)「4月に私のがんが発覚してそれからしばらくふたりとも感情の大波に翻弄される小舟みたいになって、その怒涛の日々の中で夫は、『妻を最期まで自分で面倒見る』というスイッチが入ったようだ。家事と私の世話の合間に(中略)自分が健康でいなければと日々体を鍛えている。」
【今日の映画331】※データは『映画.COM』のサイト等から入手
邦題:『シルバラード』(NHK-BSの録画で視聴)
原題:Silverado
製作年:1985年
製作国:アメリカ
監督:ローレンス・カスダン
出演:ケビン・クライン/スコット・グレン/ケビン・コスナー/ダニー・グローバー/レイ・ベイカー
ストーリー:執拗な追手の襲撃を振り切ったガンマン、エメット(スコット・グレン)が、哀れな下着姿の風来坊ペイドン(ケヴィン・クライン)と出会ったのは砂漠のど真中でだった。仲間に裏切られて身ぐるみ剥がされたという。ひとまず野宿で夜明かしした2人は次の街へ向かったがそこでペイドンはかつての無法者仲間のリーダーだったコッブ(ブライアン・デネヒー)と会った。コッブから仕事話を持ちかけられたが、足を洗うつもりのペイドンは断って、姉一家の住むシルバラードに向かうエメットに同行することになった。途中、ターリーの町に立ち寄った2人は、そこのバーで黒人客のトラブルを目撃。それを制した街の保安官からエメットの実の弟ジェイク(ケヴィン・コスナー)が縛り首目前の状態で牢に囚われていることを知らされた。ペイドンの協力で弟を助け逃亡する3人にバーで会った黒人ガンマンのマル(ダニー・グローヴァー)が3人に加勢した。途中、強盗に襲われた幌馬車隊を救い、4人はそれぞれの方向に分かれた。エメットとジェイクは姉の家へ。マルは父と妹の待つ開拓集落へ、そしてペイドンは幌馬車隊の若い女性ハンナ(ロザンナ・アークェット)を守って新しい入植地へ。だが、シルバラードは土地独占を図る牧場主マッケンドリック(レイ・ベイカー)に牛耳られており・・・
コメント:評価は5点満点で、映画.COMは3.4、TSUTAYAは3.09、Filmarksは3.5で、私の評価は3.3とした。
話がやや複雑だが、煎じ詰めれば典型的な西部劇というところ。現在では大スターになってしまったが、若かりし頃のケビン・コスナーの軽妙な演技が初々しい。
アーティスト:Red Norvo
レーベル:Savoy/日本 コロムビア
録音年月日:1950.3.3/1950.10.13/1951.4.13
曲名:@Swedish Pastry/ACheek To Cheek/BNight And Day/CTime And Tide/DSeptember Song/EMove/FI've Got You/ GUnder My Skin/HI Get A Kick Out Of You/II'll Remember April/JI Can't Believe That You're In Love With Me/KZing Went The String Of My Heart/LIf I Had You/MThis Can't Be Love/NGodchild
ミュージシャン:Red Norvo (vib)/Tal Farlow (g)/Charles Mingus (b)
コメント:スイング系のヴァイブ奏者と考えられていたレッド・ノーヴォがモダンなプレイヤーに変身して素晴し演奏を繰り広げる。いきのいい若手だったタル・ファーロウとチャールズ・ミンガスを率いてのプレイはそれまでの彼とは別人のようにモダンで斬新な響きに溢れている。短い演奏ばかりだが、三人がソロイストとしても豊かな才能を競い合う。(『ジャズマンがコッソリ愛する!JAZZ隠れ名盤100』から抜粋)